1942年9月1ヶ月にわたりナチス・ドイツの攻防にさらされてきたスターリンググラードは、もはや落城寸前。
市街は瓦礫の山、ボルカ川は血の海と化シテイタ。スターリン≠フを拝した
街であるといふう理由から司令部は徹底抗戦を指示するか、武器はすでに底を尽き、
送られる援軍は新兵ばかり、日々衰える志気のなか死いく者だけが増えていく−−−
まさに泥沼の最激戦地だった。
ヴァシリ・サイツェフも補充部隊として赴任した新兵の一人だった。上陸直後の降り注ぐ
砲弾を生き延び、広場に累々と重なる死体に粉れて反撃の機を待つていたヴァシリは、
同じように身を潜めていた青年政治将校ダニロフと出会う。
やみくもに撃って出ようとするダニロフを制したヴァシリは、手にしたライフルで
離れた場所にいるドイツ軍士官を次々に仕留めて行く。
一撃必殺の正確さ、しかもこさらの居場所を悟られずに一切を成し遂げた冷静さに、
ダニロフは、ただただ驚嘆する。
ヴァシリはウラルの羊飼いの家に育ち、祖父に射撃を仕込まれたのだった。毛皮を
損なわないためには、一発で目を撃ち抜かなければ成らない………
先の天才スナイパーと同一人物とは思えないほど控えめに話す純朴なヴァシリに、
ダニロフは好感を抱く。
一方のヴァシリも、教養にあふれ、共産党のエリート将校として理想を熱っほく語る
ダニロフに、無条件の信頼を寄せる。翌日、ダニロフが発行する
党機関紙フラウダ(赤い星)にヴァシリの名が踊った。
「同士スターリンの呼掛けに応じてゃつて来た若きヴァシリ・ザイツェフ、
ライフルのみを武器にして、一人、また一人とドイツ兵を倒して行く。苦しみを
教えてはいけない、ただ、殺したドイツ兵の数のみを数えるのだ!」
ダニロフはスターリングラードの守備を立て直すため赴任してさたフルシチョフ司令官に、
次のように提言ほ行った。「我々に必要なのは英雄です。同胞に希望とブライドと
戦闘意欲を取り戻させるために…。適任者が一人います。」
その時からヴァシリのスナイパーとしての任務が始まった。一人、また一人と標的の
ドイツ士官を倒していく彼の活躍は、ダニロフの記事を通して新聞、ラジオで大々的に
報じられ、ダニロウの思惑通り、反響は瞬く間に全国に広まり、各地からの激励や感謝の
手紙が国民的英雄ヴァシリのもとに届くようになる。
自からの危険を顧みず義務を遂行するだけでなく、それらの手紙にる不慣れな筆使で
誠実に返事を書くヴァシリを、ダニロフは兄のような面もちで暖かく見守るのだった。
そんなヴァシリを見守っている人間がもう一人いた。レジスタンスの女兵士ターニャだ。
美しいターニャに対し、ヴァシリもダニロフも一目で恋心を抱くが、お互い遠慮して
言い出せない。ターニャは心優しいヴァシリに次第に惹かれ始めるが、ダニロフは
そんな彼女の心を知ってか知らずか、ドイツ語のできる彼女わ自分のいる指令本部に
強引に転属させてしまった。
ヴァシリの活躍でソ連軍の志気がやや盛り返したとはいえ、戦場は相変わらず
一進一退を繰り返していた。とりわけドイツにまでヴァシリの勇名が轟いた結果、
その暗殺を目的にドイツ軍きっての狙撃の名手ケーニッヒ少佐が送り込まれてからは、
再び暗雲がたれ込めるようになる。
狙撃手としての腕も、冷静に相手をつけ狙う執拗さでも互角以上の強敵の出現に、
ヴァシリの自信は初めて揺らぎ始める。さらに狡猾さで一歩上を行くケーニッヒ少佐は、
ターニャが弟のように可愛がっている少年サーシャを言葉巧みに抱き込み、ヴァシリを
おびき出す卑劣な策を目論んでいた。
ヴァシリに危険が迫っていることを知り、彼を愛していることをもはや隠せなくなった
ターニャはダニロフの部隊を離れ、ヴァシリのいる防空壕へと走った。
ダニロフによって英雄に祭り上げられていることを重荷に感じるようになっていた
ヴァシリは、一まつの罪悪感を抱きつつもターニャを受け入れる。
一方、すべての所有権を廃する共産主義の理想と愛する人を独占したいという自らの
欲望に引き裂かれたダニロフは、ある作戦の遂行を告げる。
それは友であるヴァシリを見殺しにしかねない非情な作戦だった。
1942年11月。スターリングラードの街と、そこで極限の生を強いられてきた若者たちの
運命を決する戦闘の火葢が、まさに切って落とされようとしていた。
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